黒き太陽のフレア(Do It! Boy)

 車に乗り込む前に、自販機の前に立った私は、その中から350ml缶のコカ・コーラを選んだ。”つめた〜い”の中から。
 先ず、”つめた〜い”の理由から答えようと思ったが、適当につらつらと書いてみたところ、どうしようもない感じになりそうだったので、途中で消した。コカ・コーラを選んだ理由についても同様で、まあ特に理由というほどの理由もない。
 重要なのは、コカ・コーラを開ける前にフレアをやろうと思った事についてである。実は前回コカ・コーラを飲んだ時にもフレアをやろうと思ったのだが、その時は失敗してしまった。
 そして今回こそは無事成功し、フレアを行うことができた。それは、実に15年以上ぶりのフレアであった。ロックンロールを聴きながら、フレアをチューチューとやりつつ、川越街道をひた走る。これが今の私の姿である。
 
―――フレアとは―――!
 フレアとは、缶入りのコカ・コーラのタブをほんの僅かだけ持ち上げ、缶を左右に小刻みに揺らす事で、飲み口周辺に泡を発生させる事、並びに、その泡を啜る事である。この泡が太陽の活動としてのフレアを想起させる為、このように呼ばれる。
 周知の通り、コーラは下品に啜ると甘味が鼻奥に抜けて美味さが増し、喉越しが悪くなる。フレアはこの効果を追求した飲み方で、揺れる車中などにおいてもこぼれにくいという利点を併せ持つ。男子中学生などは何もしていなくてもジュース類をこぼすのだから、この効果は重要である。
 フレアをある程度行うと、内容量と炭酸の減少によって泡が発生しなくなる。しかもチビチビと飲んでいる為に、この時点でぬるくなりがちである。要するに、よく言うところの”炭酸の抜けたぬるいコーラ”が生まれるのである。だが、フレアでこれを発生させた場合は、通常の場合とは多少様子が違う。タブを口に咥え、哺乳瓶をしゃぶる様にして飲むと、何か不思議な気持ちになる。何か不思議な気持ちになるだけで、別に利点でもなんでもないのだが、所詮フレアの発生の副産物のようなものなので、正直どうでもいい。書く必要もなかった。
 とはいえここで、一気に飲み干してしまえとばかりにタブを完全に起こしてしまうのは勿体無い。これもまたフレアの副産物ではあるのだが、しゃぶって飲み干した場合、”見た目には開栓されていない空っぽのコカ・コーラの缶”が手に入るのである。これは男の子にとっては嬉しい。友達などに見せれば、ちょっとしたヒーローになれるだろう。だが、親に見せるのはNGだ。特にフレアそのものを見られると、怒られる可能性が高い。NG度は加齢と共に増すが、おじいちゃんがやってたらちょっと可愛い気がする。