生きそう

 この世の全ての人間が、というより全ての生物が、というか全てが同時に動いていると思ったら、気が遠くなるように感じられた。
 一昨日の朝に見た軽トラックが、今日の夕方に自分の車の前を走っていた。一昨日見かけたのと殆ど同じ場所で、今日は反対方向に向かって走っていた。一昨日荷台に積んであった日本酒が、今日は無くなっていた。
 あの軽トラックの一昨日の朝から今日の夕方までを想像してみた。軽トラックの運転手を想像してみた。
 青い作業帽を被った50歳くらいの農夫。一昨日の昼に、知り合いの農家に酒を送った。日本酒を入れてあった黄色いケースは一昨日から荷台に積みっぱなし。
 そんな想像は全部裏切って頂きたい。本当は想像を絶する何者かが、想像を絶する何かを経て、あの場所にいたのだと思いたい。この世の、自分の見ていないところは、できれば凄くあって欲しい。
 この世の全てを見てみたいと思うが、実際全てを見たら、多分、少しの驚きと沢山の失望。という想像を一蹴して欲しい。この世にはもう少し何かをやらかして欲しい。予想は覆し続けて欲しい。そうすれば永久に生きていく意味もある。
 夜、湯船からあがろうとしたら、着地に失敗し、滑って痛くした(こうでなければ!)。
 自分もこの世に対して何かしら裏切っていきたいと思い、色々と細かい事をやっている。例えば、今日はベッドの上にダイブしながら何か予想だにしない言葉を発するという事をやった。
 一回目は「マダ!」という言葉が出た。二回目も「マダ!」という言葉が出た。とりあえず自分の想像の範疇は超えていた。それはこの世を裏切った事になるのでは?と思ったが、多分勘違いだ。
 ちなみに「この世」は最初「世界」と書こうと思ったが、世界さんと混同したら意味不明になりそうなので、こう書いた。